設備CAD・TFASを使った作業効率がUPする機能や方法を紹介しています。
今回はCADオペレーターさんやCAD初心者の技術者さんが最初に多く作図を経験する『インサート図』をピックアップします。
初心者向けの基本的な作図方法や便利機能から、CADオペさんから上級者の方にも知って頂きたいインサート図作図のポイントなどを紹介します。
目次
TFAS・インサート図の作図方法と機能について
そもそもインサート図って必要なの?
そもそも建築でいうインサートとは『配管や機器などをスラブから吊りボルトで支持(吊る)ために、コンクリートに埋め込む鉄製の部品』のことをいいます。
そのインサートを設置するため、躯体工事の時に配管図や機器図から吊り位置を決めてインサート図を作成します。
躯体工事時に作図するため、実際に配管を施工する段階で施工図が変更となることは日常茶飯事のため、設置したインサートが実際には使用できないことはよくあることです。
私の感覚では、作図したインサート図のうち70%が使用できればかなり優秀な図面だと思います。実際には50%や1~2割も使えなかった、なんて現場もあるのではないでしょうか。
そのため「使えないならインサート図は描くだけ時間の無駄」と考える人も中にはいると思いますが、私は「インサート図こそ施工図の肝であり、金の成る木」だと考えています。
実際にインサートがしっかり使える現場は、まず職人さんの作業効率が全然違います。後施工アンカーで対応するよりも最初から吊る位置に仕込みがあるのですから当然です。
また、”躯体工事の時に図面が決まっていない”のではなく、”インサートを打つのだからそれまでに施工図を決めなければならない”と考えるからこそ、現場の品質管理を順調に進めることができます。
図面が順調に進む現場は仕事の効率が良くなり、施主・監理者・現場管理・施工業者すべてに利益をもたらします。
たかがインサート図ととらえず、現場全体の施工効率向上に貢献する大切な図面だという思いで作図してみましょう。
TFASのインサート図の基本機能紹介
TFASでのインサート図の作図機能を紹介します。
『空調/衛生』⇒『その他作図』⇒『インサート図』の中に3つの作図機能「個別配置」「区間配置」「自動配置」があります。
基本的な内容として、どれも配置する対象物となる配管やダクトの絵がなければ作図することはできません。
機能は名前の通り、「個別配置」はインサート一つずつ、「区間配置」は指定区間内を、「自動配置」は繋がっている系統すべてにインサートの一斉配置を行います。
対象となる設備を選択すると、インサートの種類や設置高さ・吊りボルトの設定などが表示されます。
最新のTFASでは吊りボルトが全て自動作図となり、3D表示で確認したり配管との干渉チェックなどを確認することができます。
ただし、インサートとボルト・支持バンドなどがバラバラのデータとなってしまうため、インサートを編集する際に邪魔になることが多いため、支障がない限り『吊り部材を配置する』のチェックを外しておきましょう。
また、インサート図を一つ一つ作図するのは非常に時間がかかる作業ですので、極力一括配置を効率よく行うために事前に『作図設定』の「インサート」で配置設定を行いましょう。
ここで設備毎に支持ピッチや継手からの間隔を設定することができます。
TFAS初期設定で国交省の一般的なルールになっていますが、現場の施工要領を確認して必要に応じて設定変更を行いましょう。
特に注意すべきは”インサート間隔”の数値です。
例えば塩ビ管80A以下の支持間隔は1,000mmが基本ですが、正確には”1,000mm以下”のため、1mmでも超えてしまうと規定外となってしまうため、設定数値は50~100mm程度少ない数値にすることをオススメします。
TFAS上で設定し作図を行えば1,000mmを超えることはあり得ませんが、実際のインサートの墨出しには太いマジックペンなどを使用し、また現場では数ミリから数センチくらいは全く気にしません。
実際に現場で10mmずれてしまい、一部990mmと1,010mmのピッチでインサートを設置した場合、支持した配管の吊りボルト間を図って1,000mmを超えてしまえば是正の指摘につながる可能性があります。
当然、ピッチを小さくしすぎては支持の数が増えてしまい作業工数や材料費に影響してしまうため、やりすぎには注意です。
TFASでインサート図に便利な機能を紹介!
寸法線の自動作図機能
”設備備CAD・TFAS『スリーブ』の寸法線、文字、管理番号一括作図方法”
でも紹介していますが、インサート機能で作図したインサート図に対して寸法線を自動作図することが可能です。
寸法線の一括作図には『基本図形』→『寸法線』→『図形間』を使用しましょう
通り芯も選択できるようにし、選択した図形の寸法線を一度に一括作図することができます。
ただし注意として、『図形間』で作図した場合、数字の変更にインサート図が追従しません。
寸法値の変更やインサート自体の移動で数値を追従させるためには、通常の『寸法線ー指定点』で作図する必要があります。
とにかく数字を一括で作図してしまいたい場合や、先に配置を調整済みのインサート図に対しては有効のため、使い分けをオススメします。
この辺の機能をできればもう少し何とかしてもらいたいものですダイテックさん・・・。
インサートの数量拾いの方法と注意事項
インサートの発注数量を確認したい場合は『拾い』機能を使用しましょう。
通常の『拾い』→『拾い実行』→『部材選択』でインサートを含め全選択して集計することで、インサートのみ単独ページで数量を確認することができます。
インサートの種類毎に集計してくれるため、配管やダクト用、3分と4分などサイズの違いなどを作図時に仕分けをすると便利です。
また『インサート』→『属性変更』で後から変更もできるため、一部在来スラブがある場合などは種類を独自に決めて変更しておくと集計時に便利です。
注意事項として、『拾い』機能は”空調モード”と”衛生モード”でそれぞれ拾いの対象から外れてしまうため、各機能で作図を分けている場合は拾い忘れに注意しましょう。
きちんと分けていれば空調・衛生でインサートの色を分けて施工する場合などの集計時に便利です。
TFAS初心者向け!インサート図の肝と寸法線作図のポイントを紹介!
さて、自動作図さえ分かればインサートを配置することは非常に簡単ですが、初心者の方が一番苦労するのが『寸法の入れ方』だと思います。
寸法線はたくさん書けば図面が見えづらくなるし、まとめ過ぎると施工するとき非常に大変です。
作図に時間をかけすぎてもしょうがないと考える人もいますが、私は全く逆の発想を持っています。
私は現場2年目の時に初めてインサート図を描いたのですが、何も考えずに作図をし職人さんに渡すと「お前これで墨出せると思ったのか?」と言われ、慌てて一緒に墨出しをして衝撃を受けたことを覚えています。
墨出し図は経験しないとその作図の良し悪しがわかりにくいものですが、とにかく図面のセンスが作業効率に直結することは確かです。
それから何フロアも作図方法を模索して自分なりの効率的な作図方法を見つけました。職人さんからも概ね好評です。
インサート図は見づらいとそれだけ作業人工も必要になり利益に直結します。それが書き方ひとつで現場の作業効率が倍近く変わります。
現場での4時間が作図の20~30分で短縮できるのであれば、図面に時間をかけるメリットはかなり大きいのではないでしょうか?
これであなたもインサート図マスター!?5つの作図ポイントを紹介!
ここからは私独自の作図方法なので、共感できる点・できない点もあると思いますが、一つの参考程度に見て頂ければと思います。
出来上がりの図面イメージはこんな感じです。
ポイント1・物量が多い場合は設備毎に図面を分割してしまおう!
まず、設備が非常に多く作図しにくい場合は、「設備毎にインサート図を分けて作図」してしまいましょう。
分割するだけ図面が増えて職人さんに渡す図面も増えてしまいますが、まず描きやすく見やすい図面は施工もしやすいものです。
それこそ無理に1枚でまとまっているよりも3~4枚に分かれていた方が、インサートの数は変わらないのですから墨出しの作業スピードが結果的に早くなるものです。
配管・ダクト・機器などで分けてしまいましょう。
そして印刷する際は対応する設備シートを単色灰色表示し、インサート図にのみ色を付けて出力します。
ポイント2・実際に墨出しする人に確認しよう!
極端なことを言ってしまうと、配管ルートさえ分かればあとは現地で支持ピッチを考えながら施工しやすいところに配置していった方が、図面で考えるよりも効率がいいことが多かったりします。
配管図に寸法線をすでに入力している場合、配管寸法だけでインサート用の寸法は不要という考え方もできます。
インサートの墨出し方法は職人さんにより異なりますが、配管屋さんが行う場合は配管ルートを出し、自分たちが施工しやすいようにインサートを配置したりします。
逆に下手に監督側がインサートの位置を決めると墨出ししにくい!と言われることもあるため、まずは誰が墨出しをするのかを確認し、どういう図面が欲しいのかを確認することがベストです。
ただし注意事項があります。
まず支持ピッチのルールなどを職人さんがきちんと把握していることが前提で、配置も職人さんにゆだねてしまうと、正しい施工管理が困難になります。
また配管の施工経験がない多能工さんに墨出しを依頼する場合、位置を正確に決めないと現場で判断ができず間違いや時間がかかる原因となってしまいます。
誰が墨出しをし、それをどこまで自分たちがチェックする必要があるのか、それによってインサート図の情報量を決定しましょう。
ポイント3・メイン寸法とサブ寸法を意識し作図すると見やすくなる!
全てのインサートに寸法線を入力する場合は、『メイン寸法』と『サブ寸法』を意識すると図面が一気に見やすくなります。
『メイン寸法』・・・通り芯と配管の曲がり・分岐用の寸法
『サブ寸法』・・・継手からインサート毎の寸法
メイン寸法はインサートを配置しない梁の真ん中に描きます。文字がインサートを隠す心配がなく、配管を追いかけている寸法線だとわかりやすくなります。メインだけ赤色などの配色にするのもよいでしょう。
サブ寸法は極力配管付近に作図しましょう。配管に平行して寸法を入力していけば、作図忘れも減らせます。
これだけで、実際に墨を出すときに配管のラインを水糸で引くこともできますし、梁に近いところから順にインサートを配置していくことができます。
単純なことですが、これに気を付けるだけでインサート図が一気に見やすく施工性に優れた図面に早変わりします。
ポイント4・機器は「集合」させた寸法線をコピーすればいい!
機器のインサートは配管よりも重要度が高くなってきます。
プロットで機器芯だけ追いかけておき、あとは納入仕様書を渡して現地出し・・・でもいいのですが、職人さんに図面と仕様書を現場でにらめっこさせるなんて私にはできません。
機器のインサートを作図する場合は、先に吊り位置と寸法を作図した集合図形を作図しておきましょう。
点線は補助図形にしておけば印刷されません。機器番号や型式を補助図形で作図し集合させておくのもよいでしょう。
あとは各機器のメイン寸法を作図し、中心に集合図形をコピーするだけで完了です。
実際に現場で墨出すときは、インサートを梁から追いかけるよりも中心を取って4つ角を出した方が楽だったりします。型枠を作成して対応する場合にも使えます。
注意点として、集合図形に配管接続向きや型式を入れて、向きや図形を間違えて配置することがないように注意しましょう。
ポイント5・数字を丸め暗算は2つまで!職人さんに電卓を使わせない図面!
最後にして究極のポイントですが、一番理想なのは「現場で計算しない図面」を描くこと、これに尽きます。
ポイントとしては二つ、「数字を丸める」「3つ以上の暗算を必要としない」です。
職人さんは様々な技能を持っていますが、多くの人に共通するのが「計算が苦手」だということです。
自分で現場作業するとわかりますが、汗をかきながら数字を見ていると、計算が得意な人でも暗算を間違えてしまうもの。
また、躯体での墨出しは基本的にマジックペンで行うため、数ミリの誤差は全く気にしません。
そのため、まずは数値の1の位はすべて四捨五入しましょう。誤差は最大5mmなので、吊りボルトの曲がりで調整できます。
そして配管上のインサートは可能な場所に限り10の位も50や100など分かりやすい数値に丸めるようにします。
あとは現場で3つ以上の計算をしないで済むように、寸法線の書き方にも様々な工夫ができます。
その一つとして、梁面からの寸法を入れておくことが最も簡単な方法です。
躯体工事の場合、実際に墨を出す際は通り芯が現地で確認できない場合も多くあります。
通り芯からの寸法のみしか出ていない場合、梁面までの寸法を差し引いて計算する必要があるため、目的の配管まで頭の中で足し算引き算を繰り返す必要があります。
梁面寸法がわかるだけで、スケールを梁面から引っかけで測ることができるので効率が非常にいいです。
ただし、現場が梁面から追えない場合や作図時に追い間違えてしまう可能性もあるため、本当に必要か作図前に確認しておきましょう。
私の持論ですが”職人さんに電卓を使わせる図面はダメ”だと考えています。
だからといってむやみやたらに寸法を書いても意味がありませんが、どうすれば電卓を使わずに作業ができるかを意識するだけで、もう一流の図面描きまであと一歩です!
最後に
インサート図は単純な作業が故に、若手社員の勉強素材としてもよく利用されますが、簡単だからこそ奥が深いのもインサート図だと思います。
私も自分で描いては墨出しを手伝うことで、より分かりやすい図面を追求するに至りました。
まずは自分で経験することが一番です。が、事務作業専門のCADオペさんなど、それが叶わない環境で働く方も多くいると思います。
現場で経験できなくても、私が経験し感じたことが本記事で少しでも多くのCADオペさんに伝わればうれしいです。
そして、いい図面を描くためには、まずはそれを使う人に意見を求めてみましょう。もしかしたら今悩んでる答えがすぐに見つかるかもしれません。
皆さんの事務作業が少しでも効率的になれば光栄です。
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